「楽しい!」と感じる、実はこれは健康のバロメーター

好きだった趣味を楽しめなくなった、それが「失快楽」

 うつの症状には、「食欲がない」「眠れない」「ゆううつである」「おっくうに感じる」「集中力がない」といったものがあります。精神科医は、こうした症状が複数ある場合に、うつ状態を疑います。

 そして、こうした身体症状のほかに、好きだった趣味なのに、なぜか楽しくなくなった。夢中になっていたことなのにわくわくしなくなった…など、「以前は楽しめていたことを、楽しいと感じられなくなる」という症状、「アンヘドニア(楽しみを失う=失快楽)」があります。

実は「診断が難しい回復の目安」

 「うつ状態」と診断する症状がいくつかある一方で、実は「どういう状態になったら、うつから回復したと判断するのか」という、回復の診断は難しいものです。

 しかし、「うつ状態」や「うつ病」と診断された人が、かつて好きだった趣味に再び関心が戻る、こころから楽しいと感じるようになった、という場合、私たち精神科医は、それを「アンヘドニア(失快楽)が消失した」ということの表れととらえ、これを「うつからの回復を示す、一つの目安」だと考えます。

<この記事に掲載されている主な内容>
・うつからの回復、実はその判断は難しい
・「こころから楽しめるようになる」ことは、うつからの回復の目安

 ここでは当クリニックの五十嵐良雄医師が、日経BPのWebサイト「日経グッデイ」で連載していた記事を日経BPの許可を得て掲載しています。

最近、わくわく、していますか?

第2回 「できる」から「楽しめる」に、それが「うつ」からの回復
2021/1/13 五十嵐良雄=精神科医・東京リワーク研究所所長

 うつ病などの気分障害の患者数は全国で100万人を超えており、ビジネスパーソンにとって大きな健康問題です。この連載では、東京のビジネス街で精神科クリニックを開業する五十嵐良雄医師が、多くの患者さんを診た経験から、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタルの罠(わな)についてアドバイスをします。


あなたは、心の底から趣味を楽しめていますか?

 コロナ禍で在宅勤務&リモートワークが当たり前になり、大きく働き方が変わったという人は多いでしょう。しかし、誰もがこうした「働く環境の大きな変化」に柔軟に対応できるかというと、そう簡単な話ではありません。

 しかも、環境の変化を強いられている期間はすでに長期に及んでいます。当初はどうにか対応してきた人たちの中にも、限界を超えて、うまく対応できなくなる人も現れてきています。

 環境の変化にうまく適応できなくなると、身体や気持ち、日常にどういうこころの症状が表れるかというと、

食欲が落ちる
・よく眠れない日が増える
・気分がゆううつになることが増える
・仕事がはかどらない、能率が落ちる

 といった症状が出てきます。

 これらは、いわゆる「うつ」の症状です。そして、こうした症状のほかに、「以前は楽しいと感じていたことを、楽しいと感じられなくなる」という症状があります。

 例えば、「今まで、好きで欠かさずに見ていた好きなスポーツ中継番組を見ても、以前のように面白いと思えなくなった」「身体を動かすのが好きだったのに、前のように楽しいと感じなくなり、おっくうになった」というようなことです。

 青春時代の楽しみが年齢とともに変わっていく、失われていくというのとはまったく違って、この症状は「うつ状態の症状」です。

 以前は好きだったことが、楽しくない、楽しめない。面白くない。

 これは、アンヘドニア(失快楽)といって、今まで楽しいと思えていたことを楽しめなくなる、「楽しい」と感じられなくなる、「わくわく」しなくなるという、「うつ」の症状の一つです。

 「以前、好きだった〇〇よりも、いまは△△が楽しい!」というように、単に興味の対象が変わって、現在も心から楽しめる対象がある場合は、これはアンヘドニアには当たりません。

 新しい楽しみを見つけたわけでもなく、これまで、楽しんでいたこと、好きだったことが楽しめなくなったという症状に思い当たり、先に挙げた4つの症状のうち、食欲や睡眠の様子など、その他の症状も既にあって、複数の症状が出ている場合は、うつの症状が表れている可能性があります。

 できるだけ早期に精神科のクリニックを受診することをお勧めします。

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