うつからの回復、実はその判断は難しい
実は、うつの症状から回復したかどうか、その判断は精神科医にとっても難しいものです。
例えば、以前、料理が得意で大好きだった人がうつになると、料理に興味を持たなくなります。なぜかというと、気分がゆううつな状態が続くからです。
ただ料理ができるようになるだけでなく、楽しめているかが大事
そして、うつの症状があるときは、集中力がなく、頭がうまく回りません。料理は手順や調味など、考えながら行わなければいけないことがたくさんあります。ですから、集中力が無い状態では、料理はできません。
うつの症状から回復してきたら、どんどん料理ができるようになるかというと、集中力が戻ってきて、気分もゆううつではなくなって、意欲もある程度、回復すれば、料理もできるようにはなるでしょう。
ただし、料理ができるようになっても、「以前のようには料理を楽しめない」「料理作りに、ワクワクしない」「義務的にやっている」といった、中途半端な状態になることはよくあります。それが「アンヘドニア(=楽しみを失う・失快楽の状態)」です。
「できるようになった」ということと「楽しいと感じられるようになった・わくわくするようになった」というのは大きく違います。その差は大きな壁でもあります。
また、うつからの回復時というのは、「ゆううつではなくなった」「特にうつの症状はなくなった」という段階なのですが、医師からみたときに、患者さんの何が、どう、良くなっているのか、わかりにくいという一面があります。
うつからの回復の見極めは難しい
その一方で、中途半端な病状の回復状態で薬をやめてしまうと、以前と同じ症状が比較的早期に出てくることをよく経験します。つまり、症状が再燃してしまう。だからこそ、「うつからの回復」の見極めは難しいことだといえます。
ご家族の方も、「もうだいぶ体調は良さそうなのに、まだ通院しなければいけないの?」「ときどき会社を休むけれど大丈夫?」「いつまで治療を続けなければいけないの?」と、そんな風に思っていることが多いでしょう。
そういう時に、患者さん本人が、何かに興味を持って心から楽しめているとわかったら、状態が改善してきて、病気が良くなっているということの表れであり、証拠だと考えてよいのです。
実は、そういうところでしか、うつからの本当の回復は確認できません。というのは、中途半端な病状の回復状態で薬をやめてしまうと、以前と同じ症状が比較的早期に出てくることをよく経験します。つまり症状が再燃するのです。
もし野菜づくりに心から楽しさを感じられているなら、それがうつの症状からの本当の回復の印だと考えていいということです。うつを患っている人や、その家族にとっては1つの目標になります。
本人にも、家族にとっても1つの目標になる
「できる」から、さらに回復してきて、ようやく以前のように「楽しめる」ようになる。それが病気からの回復です。病気になる前の、以前の自分に戻るという意味では「楽しめる」ようになることが100%の回復でしょう。症状が改善しただけの状態で、心から楽しめていないという場合は、まだ本当の回復には至っていないということです。
逆に言えば、コロナ禍の渦中にあっても、生き生きと、わくわくできる、心が躍る、心から楽しいと思えることを持ち続けられれば、それはすなわち、ストレス解消につながり、それが「うつを遠ざける」ことであり、とても大切だということです。
そこは我慢せずに自分を解放して楽しむことが、コロナ禍での健康維持のポイントだと言えるでしょう。
さて、皆さんは最近、心から楽しんで、わくわくしていますか?
(まとめ:福井 弘枝=編集・ライター)
出典:「日経Gooday」2021年1月13日掲載
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/20/111600039/010500003/
日経BPの了承を得て掲載しています