伝わっていた、いや、まったく伝わっていなかった?
葛監督:はい、そうです。それに、「ちょっと気まずい雰囲気だな」とか、「あ、今、ちょっと気持ちがすれ違ったな」というようなことを、お互いに言葉を使っていなくても、非言語的なコミュニケーションで感じ取り、伝えていたのだとも感じました。
でもまた、その一方で「私の気持ちは、相手に伝わっていると思っていたのに、じつは何も伝わっていなかった」と感じることも、たくさんありました。
そうした経験から「人は、本当に互いに分かり合うことができるのだろうか」ということを、考えたいと思いました。
Dr. 五十嵐:原点として「人間が分かり合うというのは、どういうふうにしているのだろうか」ということを考えさせられたということですか?
葛監督:そうです。
私が好きになった相手が「他人の気持ちを推し量ることが苦手だったから」かもしれません。とにかく当時の私は、「人と人は、本当に分かり合うことができるのだろうか?」という疑問を抱きながら、同時に、「人は誰かと分かり合うために、変われるのか、変わらないのか」ということも、考えるようになりました。
Dr. 五十嵐:なるほど。
それで、撮影に入ったときは、次元が変わるわけですよね。シナリオの文字から映像へと…。
葛監督:はい。そうですね。
宮沢氷魚さんなら、まっすぐに演じてくれる
Dr. 五十嵐:「宮沢氷魚さんに演じてもらいたかった」ということでしたが、その出発点はどういうところにあったのでしょうか。
葛監督:宮沢さんが演じている映像や写真を拝見して、宮沢さんには「まっすぐ」さ、そして、それだけではない、「はかなさ」を感じたんです。
それで、彼だったら、主人公の屋内透という役をすごく魅力的に演じてくれるのではないかと思いました。
Dr. 五十嵐:それで、彼と会って、そのイメージは正しかったのですか?
葛監督:はい、正しかったです。彼がどうしてこの作品を選んでくれたのか、発達障害の方についてどういう印象を持っているかというような話をしました。
そしてまた、その頃、ちょうど、五十嵐先生の大手町クリニックの発達障害の集団療法を受けている方たちから、この映画の取材に協力していただける方を募集しました。
Dr. 五十嵐:ああ、ありましたね。