漫画家・カレー沢薫さんにお尋ねします、「発達障害の診断」をどう受け止めましたか?

治らないけれど、「できないこと」は変化する

Dr.五十嵐 そうすると「困りごと」は出尽くしてきて、これからは、それにどう対処していくか、その方法を見つけるプロセスに入った、ということでしょうか?

カレー沢さん はい。

Dr.五十嵐 そういう意味ではフェーズが変わってきているのかなと感じています。

 発達障害は、病気ではなく障害であるため、ご本人たちが「苦手に思うこと」は、治らないと言われていますが、カレー沢さんのように「工夫すれば良くなる」「やれることがある」というように、できることを見つけていき、苦手なことやできないことに対して、自分なりに対処方法を工夫していけば、「苦手」や「できないこと」も、変化していきます。

 「なおらない」けれど「ましになる」というのはまさしくそういうことです。

 次回は、カレー沢さんご自身の具体的な「困りごと」について取り上げます。

 「大人の発達障害」を正しく診断するのは実は大変難しい

 さて、ここで「大人の発達障害」の診断の難しさについてお伝えします。

 実は「大人の発達障害」の診断に関して、精神科医の間では「過剰診断となっているのではないか」という話題が出ています。つまり、簡単な自記式チェックリストだけで「発達障害」と診断してしまい、場合によっては不要な薬まで処方されている場合も少なくありません。

 メディカルケア大手町での「成人の発達障害外来」では、3日間かけて検査を行い、その上で診断をします。検査はWAIS(ウエクスラー成人知能検査)と呼ばれるいわゆる知能検査ですが、言葉や道具を使っての処理能力や耳情報の処理能力など、その人の様々な能力を診ますので、その人の得意な能力や逆に不得意な能力がわかります。

 また、WMS(ウエクスラー記憶検査)と呼ばれる記憶の検査も行います。そして、自記式テストとしてAQテスト(ASDの存在を判断する自記式検査)やASRS(成人期ADHDのスクリーニング 自己記入式症状チェックリスト)を行い、更に心理士によりPARS(広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度)や、DSM5(米国精神医学会診断基準第5版)によるADHDの診断などを行い、最後にご本人の小さい頃を知っている親などに同伴してもらい、本人の発育状況や集団での行動など小さい頃の様子を聞きます。

 その「困りごと」は発達障害の症状なのか

 こうした検査を経て、最後に精神科医による診察が行われ、診断をします。これらの検査と診察を行うのに合計3日間は必要です。診断は本人が抱えている「困りごと」を発達障害の症状として理解できるかどうかがポイントです。つまり職場の場面だけではなく他の状況でも起こっているかどうか、小さい頃から同じような「困りごと」があったかどうかといったことを確認します。

 「大人の発達障害」の方は、情報をなかなか取りにくい点が診断を困難にしています。一人で来院される場合が多く、小さい頃の情報が少ないこともしばしばです。また、親が同伴しても、親にもその(発達障害の)要素があって、正しい情報かどうかわからないこともあります。そもそも典型的ではない=大人になってから発覚した発達障害の見立ては慎重に行うべきでありますが、上記のような診断上での困難さもあり、手間も時間もかかります。

今回ご協力を頂いたのは…

カレー沢薫(かれーざわ かおる)さん
マンガ家・コラムニスト

2009年、初めての投稿作『無題』が華麗に落選。しかし、恐ろしいほどの強運によりその作品で連載デビューを勝ち取り、OL兼業マンガ家になる。18年、長く勤めた会社を退職し、専業マンガ家に。強烈な物言いが受けてコラムニストとしても活躍。現在、10本以上の連載を持つ。21年、第24回文化庁メディア芸術祭にて『ひとりでしにたい』(モーニングKC)が「マンガ部門」優秀賞を受賞。22年7月、自身の発達障害の日々を描いた『なおりはしないが、ましになる』第2巻を発刊。無類の猫好き、AB型、女性。

(まとめ:福井 弘枝=フリーライター)

出典:「日経Gooday」2022年12月1日掲載
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/20/111600039/111800021/
日経BPの了承を得て掲載しています

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