長い「うつ」の間に、軽い躁(そう)が現れ、これを繰り返す
双極性障害は「躁(そう)と、うつを繰り返す、躁うつ病」であり、大きく分けると、双極Ⅰ型(いちがた)障害と双極Ⅱ型障害の2つがあります。
双極Ⅰ型障害は、躁状態の時に「大声を発しながら暴れて警察沙汰になる」「大金を短時間に散財してしまう」など、明らかに常軌を逸脱した、行き過ぎた行動があるのが特徴であり、入院治療が必要ですが、周囲が気づきやすく診断は容易です。
一方の双極Ⅱ型障害は、憂うつな気分が続く「長いうつ状態」の間に、ごく短期間だけ「軽い躁(そう)状態」が現れ、その後は「長いうつ状態」と「短い軽躁状態」を交互に繰り返す病気です。
ではなぜ、この双極Ⅱ型障害がうつ休職を繰り返す原因となるのか。
その理由の一つに、双極Ⅱ型障害の特徴が「躁の程度がごくごく軽い、軽躁(けいそう)だということ」があります。当の本人も「いつもより調子がいい」くらいにしか感じず、また、その期間は4日間程度か、もっと短い場合もあり、それゆえに、それが「双極Ⅱ型障害」による軽躁状態だとは本人も周囲の人々も気づきません。
正しく診断できていなければ薬も正しく処方されず…
そのため、「うつ」だけを繰り返しているように見えることから、「うつ病」や「反復性うつ病」と診断されて、それがずっと続いてしまっていることが問題です。なぜなら、正しい診断に至っていなければ、正しい薬も処方されておらず、適切な治療が行われていないからです。
うつ病と双極Ⅱ型障害では薬の処方が全く違います。うつ病の治療では、うつの症状を改善させるために、原則、抗うつ剤を処方します。一方、双極Ⅱ型障害では、「躁(そう)」と「うつ」の気分の波をコントロールして、その波の程度を小さくする治療が必要なため、抗うつ剤ではなく気分安定薬を用います。
双極Ⅱ型障害の患者が抗うつ剤を服用すると、気分の波が大きくなることがあり、正しく診断できていないために、正しい薬が処方されず、かえって症状を悪くしてしまうことになりかねません。
何度も休職を繰り返すことにも
また、背景に双極Ⅱ型障害があると分からなければ、うつの症状が改善した段階で主治医が「復職可」という診断書を出す場合があるわけです。そして、復職後に、いずれ再び軽躁状態が現れ、また「うつ」がやってくるということを繰り返し、何度も休職することにつながります。
先に伝えたように、診察室での短い診察時間内に患者の「軽躁状態」を医者が見抜いて双極Ⅱ型障害だと診断できるということは、まずありません。本人が情報提供しない限り、診断はできません。自分の過去をさかのぼって、ごく短く軽い「軽躁状態」があったことを確認して、医者に伝えることが必要です。
うつによる再休職を繰り返している場合は、本人や、周囲のご家族、同僚の方などが「もしかしたら?」と、別の病気を疑ってみることが大事です。
過去に、軽躁状態の時期があったかどうかを思い出す
つい調子に乗って買い過ぎてしまうのも躁状態の特徴的な行動
自分の「軽躁状態をどうやって見つけるか」というのは、なかなか難しいのですが、まずは本人が軽躁状態の時期があったのではないかと疑って、根気よく丁寧に振り返ってみることです。
躁状態の特徴的な言動・行動としては、次のようなものがあります。
テンションが高くなる、声が大きくなる、おしゃべりになる、話し続ける、話が大げさになる、話しかける相手が多い、メール数が多い、電話をかける回数が多い、人の話を聞かない、予定外の行動をする、買い物が増える、金遣いが荒くなる、短い睡眠時間でも活動できる、頭の回転が良くなるなどです。
「自分は普通の人より高い回転数で回せるエンジンを持っているんだ」という感覚だと考えるとわかりやすいでしょう。
一方でテンションが高くてイライラが強いので感情が不安定になり、ケンカっぱやくなるというようなこともあります。でも、決して憂うつ状態ではありません。
過去の行動を振り返り、軽躁がなかったか探るのも有効
前回記事で、うつによる休職から復職するのための「リワークプログラム」についてお伝えしましたが、このプログラムの中では、「どうして自分が休職するに至ったか」を振り返って、自分のものの考え方や行動から原因を探る、「自己分析リポート」をプログラム参加者全員に書いて提出してもらっています。
実は、この自己分析リポートを作る過程で自分の行動を振り返り、「過去に軽い躁があったのではないか?」と疑ってみることで、過去の軽躁状態を思い出して、双極Ⅱ型障害であるという確定診断に至るケースが結構多くあります。
集団で行うリワークプログラムには、同じうつ症状があって会社を休職した、いわば“同病の仲間”が集まります。うつの症状と、会社を休職するという大きな環境の変化に直面して不安と孤独を感じる中で、同じ病気、同じ境遇の仲間と出会い、同じプログラムに一定の期間、一緒に参加します。
再休職しないために、自分の病気について学び、セルフケア術を身に付けていくプログラムの過程で、患者さん同士は励まし合い、支え合う存在になり、共感や癒やしが生まれて互いに気持ちが前を向く、その効果は大変大きいものです。
そういう環境だからこそ、過去の自分を丁寧に振り返り、軽躁状態があったのではないかと疑ってみる作業にも、同病の仲間と一緒に前向きに積極的に取り組めるという効果があります。