主治医は診察室で、患者さんのどこを診て病状や体調を診断して治療しているのだろう?

主治医は、患者さんのどこを診て診断し、治療しているか? 主治医の頭の中を紹介します

 さて、皆さんは精神科クリニックの診察室で、目の前にいる医者が、自分の症状や、伝えた内容のどういうところ、どういう点に着目して、病状や体調を診断して治療を行っているか、ご存知でしょうか。

 答えはもちろん、「いいえ、知りません」というものでしょう。精神科医の頭の中など、覗いたことはありませんし、「私の、どういう部分を診て、診断しているのですか」と尋ねたことがある人も、おそらくいないか、仮にいたとしても少ないでしょう。

なるほど、そういうことだったのか!と理解する機会に

 今回から始まった、新しいシリーズでは、まさにその、誰ものぞいたことのない「精神科医の診察室での頭の中、診断の視点」を、精神科医である私が明らかにして、お話ししていきましょう、というものです。

 「どういう視点で患者さんの病状や体調を診ているのか。そして、どのように診断して、どう治療にいかしているのか」を、お話しすることで、患者さんのタイプ別のケーススタディとして、皆さんの疾患への理解を深めることにつがったら、と考えています。

 初回の今回は、うつと診断した患者さんが、処方した薬で様子が大きく変わったという事例をお伝えします。

<この記事に掲載されている主な内容>
・不安・抑うつ、早朝覚醒、不眠、おっくう感、集中力の欠如…
・芸術家タイプには集団で行うプログラムは向いていない
・再診:初診時とは一転、元気よくハキハキ話す様子に違和感
・誰かが疑ってみないと気づけない「双極Ⅱ型障害」の可能性
・双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害の違い
・なぜ「このままでは、まずい」と考え処方薬を変更したのか
・芸術家タイプの人は双極性障害であることが多い?

 ここでは当クリニックの五十嵐良雄医師が、日経BPのWebサイト「日経グッデイ」で連載していた記事を日経BPの許可を得て掲載しています。

医者の注目点がわかれば、診断の視点と病気の特徴がわかる

第20回 初診と再診とで印象が違う患者をどう見るか―精神科医の視点
2023/7/31 五十嵐良雄=精神科医・東京リワーク研究所所長

 さて、皆さんはご存じでしょうか。うつの症状が現れる病気は「うつ病」だけではありません。

 近年、特に「双極Ⅱ型障害」や「大人の発達障害」などによって、うつの症状が現れるケースが増えています。こうした本当の原因が見逃されている場合、正しく診断されずに、うつ病と診断されてしまうことによって、本来ならば使用を避けた方が良い薬が処方され続けていることもあります。

 今回からは、私がこれまでに数多くの患者さんを診てきた経験から、クリニックの診察室で患者さんを診察する際に、どのような視点で患者さんの病状や体調を診て、診断し、治療を行っているかをお話ししていきます。患者さんのタイプ別のケーススタディと捉えていただければと思います。

「うつ」と診断するも、処方した薬で様子が大きく変わった患者

 さっそく、今回の患者さんのケースを見てみましょう。

症例 1
人とコミュニケーションを取るのが苦手な
「芸術家」(特定のスキルに秀でている)タイプ

Aさん:男性、職業は漫画家、年齢は40歳前後、やや小太り、ラフな服装。母親の影響を受け、30年来の筋金入りの観劇ファンでもあり、お気に入りの作品の主題歌はすべて歌えると言うが、最近は観に行ってもあまり楽しめないとのこと。

※こちらの例では、実際の患者さんの情報を特定できないように一部加工しています。

 漫画家のAさんの症状は、「気分が憂鬱で集中力がなく、作品(漫画)のアイデアが湧いてこない。そのため作品を描くことが進まず、出版社の担当編集者に会うのが怖くなってきた」というものでした。

 また、以前好きだったことを楽しめなくなったというのは、「うつ」の症状であり、この状態を診断すると、不安が募り、意欲もなくなってきており「不安・抑うつ状態」となります。

 経過としては、最初にクリニックを受診した2カ月くらい前から、「不安・抑うつ状態」となっており、最初の症状としては、だんだんと朝早く目覚めるようになってきたといいます。今は暗いうちに目覚めてしまい、その後、眠れないとのことでした。

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