セルフコントロールによって「軽躁」を抑えると次の「うつ」を予防できる
双極Ⅱ型障害の治療としては気分の波を小さくする気分安定剤を処方しますが、そうした薬物療法とは別に、自分の行動を自分でコントロールすることも有効です。
「やり過ぎている時期がある」わけですから、この時期の「やり過ぎている行動とその程度」を小さくするように自分でセルフコントロールしていくと、その次にやってくる、うつの波が小さくなり、うつを予防できるようになってきます。
ある患者さんは「自分では自分の軽躁状態に気づけないことが多い。ちょっと調子がいい程度にしか感じられない」と言い、家族や友人、職場の同僚など周囲の人達に、自分がメンタルヘルスの病気を抱えていることをカミングアウトして、「自分の感情が上がったり下がったりしたら、教えてください」と頼んでいました。「私にとっては注意してもらうことが大事なんです」と伝えたと言います。
すると、「そういえば今日は、発言が多い」「明る過ぎる」「メールが増えた」「ちょっと攻撃的だと感じた」といったことを、その都度、教えてもらえるようになり、そして、「調子が上がっている」と指摘された時には、言動を抑えるように留意し、やらなくてもいいことはやらず、断れることは断るようにしたそうです。
「その時に自分の言動を抑えることが自分を守ることにつながり、結局は自分が倒れないことで職場の皆に迷惑をかけずに済む」と語っていました。
「明る過ぎる」というのも自分では気がつかない場合もある。周りに指摘されたら、自分をコントロールできるようになるかもしれない
周囲にカミングアウトすることに抵抗を感じる人はいるでしょう。でもこの人は「周囲からのサポートを受けるために抵抗はありませんでした」と話しています。
自分の軽躁に気づいて、行動を抑制すると「うつ予防」に
気分が良いと感じている時期に、自分の行動を抑えるのはなかなか大変ですが、この患者さんのように抑えると、その後の「うつ」を予防することにつながります。逆に言えば、これを抑えないと、次にやってくる「うつ」を予防できません。
例えてみれば、波打ち際に立っているのと同じで、様々な要因から「(気分の)波が来るな」と考えていないと、波に流されてしまいます。しかし、波が来たときに「来るな」と思っていれば、しっかり踏ん張って立っていることができ、それほど流されずに済みます。軽躁時の波を小さく抑えることが、「波が来ても踏ん張って立っていられる」状態につながるのです。
自分にとって何がストレスになるのか、自分がどういうことに弱いのかを知っていることも大事です。それが季節である場合も、心理的なストレスの場合もありますが、大事なのはストレスがたまっていると自覚して、自分の時間を充実させ、ストレスを開放することです。
この、周囲にカミングアウトした患者さんは、その後、本当に病状が安定していきました。自分の軽躁状態を知って行動を抑える対策は効果があるということです。
また別の患者さんは自分の一日の行動とその時の気分の上下について、毎日、朝・昼・晩と定期的に時刻を決めて振り返り、記録を付けて観察していました。いつもよりも行き過ぎた行動を確認したら、その行動量を抑制するためです。
自分の行動観察と記録を毎日、細かく丁寧に続けていくことは大変なことだったと思いますが、家族に心配をかけたくないと言って、自分の行動の変化や体調管理としっかり向き合っていました。
そうやって、ごく短い軽躁の出現に注意して、気分の高揚による行動を抑制できると、次にやってくる「うつ」の期間が短くなり、その程度も軽くなります。
やがて「うつ」でも「軽躁」でもない普通の時間が増えていく
そして、うつの期間が短くなるということは、「うつ」でも「軽躁」でもない、どちらでもない平常な状態が生まれ、普通の時間がどんどん長くなっていくのです。
この状態が「うつと軽躁の波をコントロールできている状態」といえます。
毎日、定期的に自分の行動記録を付けていた患者さんは、その後、薬を止めることができました。双極Ⅱ型障害は患者さんが自分で、病気について学び、自分の体調や状況を把握して、管理していくことで、次に来る「うつの波」を抑えて、付き合っていくことができるのです。
「付き合っていける」という表現では病気が一生続くように感じるかもしれませんが、躁状態が激しいⅠ型の場合は入院による長い期間の治療が必要であろうと考えられている一方で、この双極Ⅱ型障害という病気は「ずっと治らないのかどうか」まだハッキリ決着はついていません。Ⅰ型とⅡ型はどう違うのかといったことなど、まだまだわかっていないことは多いのです。
今のところは「気分の大きな波がなくなって、薬を徐々に減らしても、その波が大きくならなければ治っていっている」と判断しています。
いずれにしても、背景疾患として双極Ⅱ型障害が隠れているのに、「うつ」と診断されて、合わない薬を服用した結果、気分の波がおさまらず何度も再休職を繰り返す会社員がいることを知っていただき、再休職を繰り返している人が身近にいるようなら、そもそもの診断が間違っている可能性があることを伝え、正しく病気を鑑別診断できる医療機関を受診することを勧めていただきたいと考えています。
次回は、うつの再休職を繰り返す背景に「大人の発達障害」がある場合について、その特徴や対応方法についてお伝えする予定です。
(まとめ:福井 弘枝=編集・ライター)
出典:「日経Gooday」2021年3月10日掲載
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/20/111600039/030200005/
日経BPの了承を得て掲載しています