さっきまで手に持っていたものが、気づけばないことも
Dr.五十嵐 漫画『なおりはしないが、ましになる』(以下、「なおまし」)の中に登場するシーンで、「仕事をしていても、気になることがあると、すぐにそちらを優先してしまい脱線する」という場面が出てきますが、これは、ADHDの特性の「衝動性」に由来すると思います。
©カレー沢薫/小学館
思いつくまま脱線してしまうのはADHDの特性「衝動性」由来のもの
Dr.五十嵐 そして、大人の発達障害の場合、ADHD(注意欠如・多動性障害)のほかにASD(自閉症スペクトラム障害)も併せ持っていることが多いのです。
ASD由来の困りごととしてはこのようになります。
ASD(自閉症スペクトラム障害)の困りごとは主に4つある
1. TPO(時間、場所、状況)に合わせた行動ができない
2. 場の空気が読めない(想像力の欠如)
3. 他人の気持ちを理解するのが苦手
4. 他人から自分がどう見えているのかわからないし、気にしていない
5. 強いこだわり
Dr.五十嵐 ASDの特性の1つである「こだわり」は、いったん何かにこだわると、なかなか変えられない。一度苦手だと思った人はずっと苦手、というものです。
カレー沢さん ああ、わかります。自分が興味のない相手とは、何年一緒にいても、何を話していいかわからず、ずっと苦手のままです。
©カレー沢薫/小学館
一度苦手に思ったら、永遠に心を閉ざす
家族はどう接すればいい?
Dr.五十嵐 また、私が発達障害の方のご家族からよく尋ねられるのは「どのように対応すればいいのでしょうか」というものですが、なかなか答えは難しい。むしろ、淡々と「どうしてほしいか」と、ご家族からご本人に尋ねる方が良いですか?
カレー沢さん そうですね…。私には「夫にこうしてほしい」ということ自体がないというか。だから「こういうことをわかってほしい」というのを、まだ伝えられないですね。
Dr.五十嵐 パートナーの方 に「こうしてほしい」と言うには、まだカレー沢さん自身が、自分自身の理解のレベルに至っていないから、的確に「こうしてほしい」というのが出てこないのでは?
カレー沢さん そうですね。私は夫のおかげで問題なく暮らせていて、夫を頼っている面も多いのですが、そこで「こうすればいい」というような改善策を言えないというか、どうしたらいいのかなあと…。
Dr.五十嵐 なるほど。カレー沢さんご自身も「迷っている、わからない、言えないのだ」ということをパートナーの方に理解してもらえばいいですね。おそらくパートナーの方はわかっているのではないですか。だから、大きな反応をせずに淡々と生活を続けている。
カレー沢さん はい。こちらが言えば聞いてくれるとは思うのですが、私が言わないから、向こうも「どうしたらいいか、わからない」のだと思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カレー沢薫さんは、日常の中で感じる「苦手なこと」や「困りごと」を、漫画「なおまし」の中で、とてもわかりやすく描いています。
苦手なこと、困りごととして、どういうことが現れるかは、人によって、障害の特性によって異なりますが、私がこれまでに診察した患者さんの多くから、「大人になるまで周囲に発覚しなかった大人の発達障害」の場合、ADHDとASDの両方の特性を持つことがわかってきました。
カレー沢さんも、ADHDとASDの2つを持ち、その様子をご自分でこのように漫画に描いています。
©カレー沢薫/小学館
この図は発達障害の3つの種類を説明するものですが、それぞれの領域は重なっています。大人になるまで周囲に気づかれなかった「大人の発達障害」は、主にADHDとASDの両方の特性が混在するのが特徴です。