主治医は診察室で、患者さんのどこを診て病状や体調を診断して治療しているのだろう?

再診:初診時とは一転、元気よくハキハキ話す様子に違和感

 2週間後の再診時は、初診時の「うつむきながら、トツトツと話す」という姿とは大きく異なっていました。声にはハリがあり、声量も大きく、初診時とは打って変わって姿勢正しく、元気よくハキハキと話す彼が私の前にいました。

 初診時の様子とあまりに違うことから、もしかしたら双極Ⅱ型障害の症状の「軽躁(けいそう)状態」になった=「うつ」の状態から、躁(そう)状態に転じた(躁転した)のではないかと考えました。「気分の憂鬱さはどうですか?」と尋ねると「憂鬱どころか、気分は爽やかです。ただ、朝早く起きてしまうのは変わりません」ということでした。

 双極Ⅱ型障害(そうきょく にがた しょうがい)とは、「うつ状態」と「躁状態」を繰り返す双極性障害の一つです。ほかに、双極Ⅰ型障害があります。

 双極Ⅱ型障害は、憂鬱な気分が続く長いうつ状態と軽い躁状態(軽躁状態)を交互に繰り返す病気です。軽躁状態は多くの場合、うつ状態に先行して見られます。したがって、双極Ⅱ型障害であると診断するためには、この、ごく短期間の「躁(そう)状態」があることを確認する必要があります。

誰かが疑ってみないと気づけない「双極Ⅱ型障害」の可能性

 実は、「双極Ⅱ型障害である」と診断するためには、ごく短期間の軽躁状態があることを確認する必要があります。しかし、軽躁状態はせいぜい数日程度しか続かず、本人は、「ちょっと気分が良い」という程度にしか感じません。本人がそういう状態ですから、周囲も気づきにくく、また、クリニックなどでの短い診察時間内では、医師も、その患者が双極Ⅱ型障害であると正しく診断することは難しいのです。

 ではどうしたら、よいのでしょうか。最初の1歩は、誰かが疑ってみることです。

 「おや?もしかしたら…?」と疑ってみて初めて、双極Ⅱ型障害の可能性を考え、短い軽躁状態を確認していくことになります。そして、軽躁状態を確認できなければ、双極Ⅱ型障害であるという診断に至ることは難しいのです。

 海外の文献ですが、診断に至るまでの期間が5年以上かかる割合が35.4%、1~5年の間が30.2%で、1年以内は34.4%しかないといったデータもあります。

 Aさんの場合は、「初回とは、だいぶ様子が違う」という違和感があり、「もしかしたら躁転したのかも?」と、双極Ⅱ型障害を疑うキッカケになりました。

 初診時とは、まったく印象が異なるAさん。そして前回処方したアモキサピンに気づき、「このままでは、まずい」と考えて、別の薬(炭酸リチウム=気分を安定させる薬)に変更しました。

 その後は、週を追うごとに安定してきました。2回目の診察時は軽い躁状態であったと再確認しました。

双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害の違いは躁のレベルの違い

◆双極Ⅰ型(いちがた)障害
 双極Ⅰ型障害の場合、気分が高揚して活動が著しく活発になる「躁(そう)状態」の程度が激しく、眠るのも忘れて活動したり、高額な買い物やギャンブルで多額の散財をするなど、明らかに行き過ぎた行動があり、入院治療が必要なレベルとなります。

◆双極Ⅱ型(にがた)障害
 一方の双極Ⅱ型障害は、躁状態はごく短期間であり、かつ、軽い躁状態(軽躁)のため、本人も周囲の人たちも「最近、調子がいい」という程度にしか感じません。

 しかし、その後の「うつ状態」は、通常のうつの人と同じ程度の長さであるため、長年にわたり「うつ」と診断されて、双極Ⅱ型障害であるとは気づかれないままというケースもあります。うつと、双極Ⅱ型障害では治療方法が異なり、薬も違います。長年、うつの薬を処方されて治療を受けているのに、なかなか症状が改善しない場合は、双極Ⅱ型障害の可能性を疑ってみる方が良いかもしれません。

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