「大人の発達障害」とは、本人が子供の頃に周囲の人が障害に気づく「典型的な発達障害」とは違って、大人になるまで周囲に気づかれずに、本人の工夫によって苦手なことを何とか切り抜けてきたというケースです。
周囲に気づかれずに来られたほど、その障害の程度は軽いのが特徴ですが、「大人の発達障害」の場合、複数の特性=障害の要素が重なって現れるということが知られるようになって来ました。
発達障害の程度が軽いということは、症状である困り事をよくみていくと、複数の要素が重なっていることがわかります。
また、「大人の発達障害」ではASDとADHDが問題となりますが、ASD、ADHDの症状は軽いのですが双方の特性をわずかずつ持っている方が多く、症状や困り事は様々です。
すなわち、一人一人の困り事が多様化しており、その支援は個別性を大事にすることが必要となります。
近年は簡単な方法で「発達障害である」と診断を行うクリニックが増えていますが、正しく診断できていなければ、薬の処方が間違っている場合もあることを、ぜひ知っておいてください。
<この記事に掲載されている主な内容>
・複数の特性が重なって起こる困りごと
・さっきまで手に持っていたものが、気づけば無いことも
・家族はどう接すればいい?
・大人の発達障害はADHDとASDの両方の特性を持つ
・いま思い返すと、父は私とよく似ている
・正しくない診断で、誤った薬を処方しているケースも
ここでは当クリニックの五十嵐良雄医師が、日経BPのWebサイト「日経グッデイ」で連載していた記事を日経BPの許可を得て掲載しています。
大人の発達障害の人が「2つの要素を併せ持つ」とは、どういうこと?
第18回 安易な診断方法で誤った薬を処方されているケースも
2023/3/30 五十嵐良雄=精神科医・東京リワーク研究所所長
発達障害の方には、障害由来の「困りごと」があります。この連載では、ご自身の発達障害を漫画に描いて連載している漫画家のカレー沢薫さんに「発達障害の人が直面する悩みごと、困りごと」について、3回にわたりお聞きしています。
3回目(最終回)の今回は、大人になるまで周囲に気づかれなかった大人の発達障害の場合、「ADHDとASDの2つの要素を併せ持つ」ことが多く、それを前提として困りごとの謎解きをしました。文末にはカレー沢さんから発達障害の読者の皆さんへのメッセージもあります。
前回は以下のADHDの3つの特性について、それぞれ1つずつを原因とする「困りごと」には、どういうものがあるか、また、どうしてそれらが現れると考えるか、カレー沢さんにお聞きしました(内容は前回記事を参照してください)。
ADHD(注意欠如・多動性障害)の特性は
「不注意」「多動性」「衝動性」の3つがある
具体的には
・不注意=注意力不足、1つのことに集中できず、忘れ物や失くし物が多い
・多動性=じっとしていられない
・衝動性=思いついたら行動してしまう、というものです。
複数の特性が重なって起こる困りごと
そして、困りごとは「複数の特性が重なって起こる」場合もあります。ADHDの場合、その特性として「不注意」「多動性」「衝動性」の3つがあり、一つひとつの特性に由来して現れる困りごとは「ADHDの典型的な症状」と言います。
実際にはADHDの困りごとは、この3つの特性のどれか1つに由来して現れる「典型的な症状」だけではありません。3つの特性のうちの2つ、あるいは3つ全部が重なって現れる症状も多いのです。
例えば、「不注意」と「衝動性」の2つが重なって起こる困りごとの1つに「家の中のモノを管理できない」というものがあります。
「不注意」という特性から、1つのことに集中できずに、いろいろなことに意識が移る。そして「衝動性」という特性から、思いついた考えを優先してしまうということも起こります。
ここからはカレー沢さんから伺ったことをお伝えします。
1つのことしかできない、相手の顔を覚えられない、空気が読めないなど、長年の悩みの原因は発達障害によるものだった。2021年に続き、発達障害について笑って学ぶ漫画第2巻(右)を2022年小学館より発刊