大人の発達障害、会社に理解と配慮をしてもらうには

患者さんが自分で復職を進めて、回復と安全を担保することは難しい

 今回の事例を振り返ってみると、患者さん本人の状態や状況を会社に伝え、会社の理解を得ながら、復職へのプロセスを進めていく段階において、患者さんだけで会社と交渉し、「回復と安全を担保する」というのはなかなか難しいことがわかります。

 そこで、本例のような「うつ」や「発達障害」などの疾患や障害においても、今回のようにクリニックの専門的な知識を持つスタッフを「コーディネーター」として加え、雇用主と患者さんの間に入って、疾患や障害の特徴や傾向、患者さんの体調や回復状況などについて助言してもらうといいでしょう。そうすることで、復職のプロセスや安全配慮、業務の軽減、求められる役割の縮小といった復職後の働き方への交渉が可能となり、体調回復に合った復職を実現できます。そのサポートする役割をコーディネーターが担うのです。

◆コーディネーターとは:

 医療従事者で患者さんと社会との間の架け橋となる役割を担う人のことを医療コーディネーターといいますが、ある分野に関して専門的な知識を持ち、その知識や経験をもとにアドバイスをする場合も、コーディネーター(調整係、調整担当者)といいます。

 会社側が、発達障害を有する社員に対して、安全配慮の必要性を理解したとしても、現状では復職者の「業務の軽減」や「求められる役割の縮小」といった対応を認めるかという点においては、なかなか難しいのです。そこで、今回の例では、当クリニックのスタッフがコーディネーターとして関与することにより、本人の体調や意向に沿った復職につなげることができました。

発達障害は「発達障害である」と診断することが最大の難関

 さて、最後になりますが、「発達障害」の最初の関門となる「診断」の困難さについてです。実は、発達障害はまず、「発達障害である」と正確に診断することが難しいのが最大の特徴と言ってもよいでしょう。

 正確に診断するためには、幼少期から現在に至るまでの詳細な情報を得ることに加え、各種の心理検査や知能検査、記憶検査等も踏まえた多角的な評価が不可欠となり、多くの時間を必要とします。そのため、当クリニックでは正確に診断するための「成人の発達障害専門外来」を設けています。

 そして休職している方に関しては、リハビリの場として「リワークプログラム=職場復帰するためのプログラム」に参加してもらいます。

 そこに参加しているのは発達障害の人ばかりではありません。「うつ」や「双極性障害」など、参加者のそれぞれが、それぞれの疾患や悩みを抱えながら、復職に向けて体調を整え、復職後に再休職しないために、準備を行う場所です。リワークプログラムでは、自分で自分の健康を守るための様々な方法を身に付けることを学び、復職に備えます。発達障害の方に対しては、自分の特性を理解し、得手不得手をしっかりと認識するプログラムも準備されています。

 また、無事に復職した後にも、発達障害の方が体調を崩さずに仕事を続けていくためのプログラムが用意されています。それが2014年からコミュニケーションを改善する場として設けた「マンスリーコムズ」という、月に1回実施している発達障害の方のためのリハビリテーションプログラムです。

 具体的な内容については、また次回以降、お伝えしていきます。

(まとめ:福井弘枝=フリーライター)

出典:「日経Gooday」2024年1月31日掲載
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/20/111600039/012300032/
日経BPの了承を得て掲載しています

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