発達障害の人に恋をして、悩んだ。今なら当時の自分にどんな言葉をかけるだろう?

かつて発達障害の男性に恋をして悩んだ

Dr. 五十嵐:さっそくですが、監督はこの作品が本格的な脚本・監督映画の1作目ということですが、映画化に至った経緯について、お聞かせください。

葛監督:はい。私はもともと、大学時代に演劇や映画を作るサークルで、ずっと映画を作っていまして。大学卒業後も、今回の映画が決まるまでは、自分たちで制作費用を捻出して、インディーズ映画(自主制作映画)を作っていました。

 そして、今回の映画の企画は、主演を務めてくださった宮沢氷魚さんの所属する事務所が、所属俳優6人それぞれを主役にした映画企画を募集したことから始まりました。応募者は「この俳優さんに、この主役をやってほしい」という意図で、企画を作り、最終的には、事務所と演じる俳優が、応募作の中から実際に映画化する企画を選ぶというものでした。

Dr. 五十嵐:なるほど。では、そこで、なぜ「発達障害の人との恋」というテーマを選ばれたのでしょう?

葛監督:じつは、かつて、私には好きな男性がいて、その彼が発達障害でした。その恋を通じて、私の心の中には「どうしていたら、良かったのだろう?」、「今だったら、あのときの自分にどういう言葉をかけられるだろう?」という思いが残っていました。

 それで、「発達障害の人との恋愛」をテーマに、今なら、そのときの自分の悩みに、しっかり向き合えるのではないか、と考えたのです。

 また、演じる俳優さんの中に宮沢氷魚さんがいました。澄みわたるような透明感を持つ彼なら、発達障害の方が持つ「少年のような心」を表現して、演じてもらえるのではないかと、そう考えて宮沢さんを主演とする映画シナリオを書いて応募しました。

Dr. 五十嵐:なるほど。それで、そのシナリオを読まれた宮沢氷魚さんが「このシナリオなら」ということで、選んでくれて映画になった、ということですか?

葛監督:はい、そうです。


「春さん、今、月が欠け始めました!見てみてください、早く、早く!」という彼からの突然の電話に、春は驚きながらも、2人は一緒に月食を見ることに。好きなものを好きと言う、彼の嘘のない言動に「発達障害も、彼を彼らしくしている理由の一つかもしれない」と、しだいに彼女は彼にひかれていく ©2022『はざまに生きる、春』製作委員会

人は本当に分かり合えるのだろうか?

Dr. 五十嵐:監督は、発達障害の方とのご自分の恋愛をベースにこのシナリオを書かれたということですが、どういうことを描こうとなさったのか。また「発達障害の人に、監督が感じたこと」とはどういうものなのか、もう少しお話しいただけますか。

葛監督:はい。発達障害の人を好きになった経験を経て、私は「人と人が、分かり合う」ということと、「言葉の無力さ、言葉の大切さ」について、ものすごく考えさせられました。

 その恋に出会うまで私は「人と人は、分かり合えるものだ」と、漠然と思っていました。なぜなら、言葉があるから。言葉は「人と人とをつなぐ大切な手段で、人が生み出したコミュニケーションのツールなのだから」と。

 けれど、彼と出会ってからは、それがすごく虚無のように感じられて、これまで言葉に頼っていたと思っていたけれど、「もしかしたら、言葉以外のコミュニケーションでも、いろいろなことを分かち合っているのかもしれない」と、強く感じました。

Dr. 五十嵐:なるほど。発達障害の人と「言葉で通じ合おう」とすると、跳ね返される、拒絶されるということがあります。

 一方で、言葉以外の、ちょっとした表情や、ジェスチャー、声の抑揚など、非言語的な表現、言葉以外のことで気持ちを通じ合わせることができる、という側面があります。監督もそういうことをお感じになったのでしょうか。

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