この記事で紹介しているのは、適応障害(適応反応症)と診断され休職したSEの患者さんです。当院の医療リワークに参加するため転院されましたが、休日は趣味のバンド活動で忙しくされている様子もあり、職場で「仮病ではないか」と思われるなど、関係者が対応に苦慮している様子でした。
医療リワークのプログラム中、一度は安定するも、主治医から指示された自己分析レポート作成において、また調子を崩すこともありましたが、同じ苦しみを知っている仲間の存在や、医療スタッフの見守りの中で、プログラム参加前の様子とは一変して、表情も明るく変わられました。
医療リワークの基本の3ステップ
現在、医療リワークは、国内約200カ所の医療機関で受けることができます。主治医と看護師・保健師・臨床心理士などの医療スタッフがチームとなり、プログラムを行います。そのため、プログラム自体が「診断の場」となることが大きな特徴です。
医療リワークの基本は下記の3ステップであり、地域や施設の規模によってプログラムの内容は多少違いますが、中心には共通の考え方があります。
1. 集団に慣れる、生活を整える、病気を学ぶ
2. なぜ、自分は休職に至ったかという自己分析により、自己の課題を明確にする
3. 心理プログラム、集団プログラムによって対人関係能力を改善する
ここでは当クリニックの五十嵐良雄医師が、日経BPのWebサイト「日経グッデイ」で連載していた記事を日経BPの許可を得て掲載しています。
職場では具合が悪いが休日は趣味で忙しい…そんな患者にどう対応
第24回 医療リワークは「うつ休職から復帰するためのブースター」
2023/12/27 五十嵐良雄=精神科医・東京リワーク研究所所長
厚生労働省の調査によると、うつ病などの気分障害の患者数は2020年に全国で172万人と報告されており、ビジネスパーソンにとっても大きな健康問題になっています。ただし、ひと口に「うつ」と言っても、うつの症状が現れる疾患はうつ病だけに限らず、たくさんあります。特に「双極Ⅱ型障害」や「大人の発達障害」などによってうつの症状が現れ、うつ病と診断されてしまうケースが増えています。
では、そんな状況で、精神科医はどのように対処しているのでしょう。精神科医の五十嵐良雄氏がどんな視点で患者さんの病状や体調を診て、診断し治療を行っているか、患者さんのタイプ別に紹介していきます。
この連載では、私がこれまでに数多くの患者さんを診てきた経験から、クリニックの診察室で患者さんを診察する際に、
- どのような視点で、患者さんの病状や体調から原因疾患を診断しているか
- その診断を経て、どういう治療を行っているか
という精神科医の診断と治療についてお話しています。
今回の患者さんのケースはこちらです。
症例 5
今回の患者さんは大学卒業後の4月に大手電機メーカーに就職し、新入社員研修後、6月にシステムエンジニアとして現場に配属されるも、その直後から憂うつな気分と、おっくう感や早朝覚醒が毎日出現するようになった。また、不安感、吐き気、下痢、食欲不振などの身体の不調を強く訴え、6月下旬より出社困難に。
その際、心療内科を自分で探して受診して「適応障害」と診断され、入社後わずか3カ月後の7月から勤務先を休職した。
Aさん:25歳、男性。休職後に復職の話が進むと、おっくう感、吐き気、下痢等の症状が現れて復職がうまく進まなくなるという状態になり、産業医の勧めで医療機関が行う医療リワーク(*1))に参加するため、当クリニックに転院。
休職の原因を本人は「教育担当の職場の先輩や上司が威圧的であったこと」を挙げ、「別の部署に異動できれば大丈夫だと思う」と他罰的であり、休職時の職場からの異動希望を強く訴えていた。
産業医からの情報では、「社会人としてのルールを教育しようと指導すると、すぐに体調が悪くなる」、「周囲への要求が多い」、「職場では具合が悪いと訴えるが、休日は趣味のバンド活動で忙しい様子であり、仮病ではないかと思う」など、職場の関係者が対応に苦慮している様子がうかがえた。
※こちらの例では、実際の患者さんの情報を特定できないように一部加工しています。
*1 精神科クリニックなどの医療機関が行う「リワークプログラム(復職支援プログラム)」のこと(リワークプログラムの内容は次ページで詳しく解説)。
今回の患者さんは、上記のような経過を経て出社困難となって会社を休職し、その後、復職準備のために当クリニックの医療リワークへの参加を希望して、来院した男性です。
初診時の診察では「朝から気分の憂うつと共に両手両足に強い倦怠(けんたい)感があり、午前中はずっと横になって寝ている」とのこと。「午後には気分がやや良くなり、夕方には外出もでき、趣味のバンド仲間と練習をして一緒に食事する日もあるが、翌朝の気分や倦怠感が改善する兆しは無かった」と話します。
外出できても集中力はかなり低下しており、「新聞を読んでも、ほとんど内容が頭に入ってこない」ということでした。睡眠は、「不眠の時期があったかと思うと、過眠となって一日中寝て」おり、睡眠覚醒リズムが乱れていました。
食欲も一定せず「食欲が低下していたと思うと、夜中にコンビニへ食べ物を買いに行き過食となる」こともあるようでした。「漠然とした不安感があり、会社での面談があると極度に緊張して、吐き気や下痢などの身体症状が表れて、約束をキャンセルすることもあった」といいます。
休職の原因として、本人は「教育担当の職場の先輩や上司が威圧的であること」を主な要因として挙げ、「自分が今の職場から異動できれば大丈夫だと思う」と休職時の職場からの異動希望を強く訴えていました。
一方、産業医からの情報では「社会人としてのルールを教育しようと指導すると、すぐに体調が悪くなる」、「周囲への要求が多い」、「職場では体調が悪いと訴えるが、休日は趣味のバンド活動で忙しい様子であり、仮病ではないかと疑う」など、職場の関係者として対応に苦慮している様子がうかがえました。
さて、ここで、この男性が参加を希望している、当クリニックの復職支援のための医療リワークがどういうものなのか、説明しましょう。