大人の発達障害はADHDとASDの両方の特性を持つ
ADHDとASDの両方を併せ持っているというのを図に示すと、このようになります。
「子供の頃に周囲が気づくほど障害が強く現れる定型的な発達障害(赤と青の部分)」ではASDだけ、ADHDだけという、どちらかの特性が際立ってあります。その一方、「大人の発達障害(紫色の部分)」の場合は「大人になるまで周囲に発覚しなかったほど、特性の程度は薄い」のですが、ADHDとASDの両方の特性が共存して混ざっていることが多く、両方の特性による困りごとが現れてきます。
例えばつい先日、カレー沢さんは漫画「なおまし」の中で、「発達障害の自分は、さまざまなストレスを感じやすい」と描き、その「さまざまなストレス」の原因を、次のように表現しています。
©カレー沢薫/小学館
2コマのうち、右の漫画で積み重なっている4つはストレスの原因となっている発達障害由来の特徴です。上から「こだわり」「感覚過敏」「想定外のことに弱い」という3つは主にASD(自閉症スペクトラム障害)の特性の可能性があり、一番下の「イヤな記憶が残りやすい」はADHD(注意欠如・多動性障害)の特性の可能性があります。ADHDの特性をベースに、ASDの特性が重なり、2つの要素を持ち合わせているためにストレスを感じやすくなっていることを表わしています。
このように、ADHDとASDの両方の特性があることから、「困りごと」も両方の特性が関係して起こります。しかも、各人のADHD・ASDの濃度は個人差が大きく、さまざまです。そのため、困りごとは人によって異なり、この点が診断を難しくしています。この点については、最後に触れます。
いま思い返すと、父は私とよく似ている
Dr.五十嵐 それから、漫画の中にカレー沢さんのお父さんの話が出てきますが…。
©カレー沢薫/小学館
父は「こだわりの宝庫」だった
カレー沢さん はい。いま思い返すと、父は私とすごく似ていて。
Dr.五十嵐 どういうところが、似ていると思いますか?
カレー沢さん 生活が、すごく似ています。部屋を片付けられないし、興味のあることについては結構、多趣味で。趣味の関係の人とは付き合いがあるけれども、そのほかの対外的なことは母に任せているというように。本当に私と同じような感じです。
Dr.五十嵐 なるほど。実は「うちの子供が学校で『発達障害なのではないか』と言われました。子供は、うちの夫とすごく似ているんです」と話すご家族はとても多いんですよ。
さて、最後にカレー沢さんから発達障害の人に伝えたいメッセージはありますか?
カレー沢さん はい。…私は自分で文章を書いたり、漫画を描いたりして「自分の発達障害を生かしている」のかな、と思うんです。
頭の中はすごく忙しくて、疲れてしまうこともありますが、それは集団の中ではマイナスになっても、独りで何かを考えるには向いていて、文章を書いたり漫画を描いたりすることに生かせています。もしかしたら「頭の中が忙しい状態」がないと、何も思い浮かばず、漫画も描けず、原稿も書けないかもしれません。
会社勤めをしていた時は、周りに迷惑をかけることが多く、それにストレスを感じていましたが、今は独りで、ストレスを感じない環境で仕事ができています。
ですから、発達障害の人は「自分にできること、得意な分野を見つけること」が、とても大事なのではないかと思います。
©カレー沢薫/小学館
困りごとがある一方で、他の人よりも得意なこと、うまくできることがあるのも発達障害の特徴の1つ
Dr.五十嵐 それは大事なメッセージですね。今回は「できないこと、苦手なことばかり」をお聞きしましたが、一方で、発達障害の人には「得意なこと、できること」があり、それが類まれなる才能であることも多い。