本人にしか分からない、山・谷を繰り返す小さな気分の波
大きく捉えれば、うつの症状が進んでいる状態でありながら、1日の中には山・谷を繰り返す小さな波があるというのは、双極性障害の特徴ではないかと考えています。こうした小さい波が、しかも症状によって程度の差がある波が、基本的な症状であるうつの症状が強くなっているプロセスで認められるということは本人にしか分からないことです。しかも、本人がそれをうまく表現しないと周囲の人には理解されません。
Aさんは、台風到来による低気圧にさらされることで、大局的には、うつの症状が進んでいきながらも(図の左から右下へ下降する線)、その一方で症状を細かく分けるとそれぞれに波があることを図で表現したわけです。
そして、気分に波があり、こうした山・谷を繰り返すのは双極性障害でよく見られることが知られており、診断の一つの根拠ともなっています。
小さな波の存在に気づけなければ、誤診される可能性も
私自身も、うつの存在だけを追いかけていたら、うつを繰り返している状態の彼を「反復性うつ病」(うつを繰り返す疾患)と診断していたと思います。
彼の場合は、軽躁状態が現れ周囲の人も気づいたことで「双極Ⅱ型障害」だと正しい診断ができたものの、周囲の人が気づかなければ診断に至りません。多分、山・谷を繰り返す小さな波の存在は本人しか気づけません。そういった場合、「うつ」を繰り返していても双極性障害の存在を疑ってほしいのです。なぜなら、治療薬が変わるからです。
抗うつ薬では気分の波は抑えられないばかりか、波は大きくなるといわれており、通常は気分安定薬を使います。そうすると気分の波は安定化していきます。日常生活に支障がない程度になってくれば、治療は成功です。小さい波は残っても、中程度や大きな波がなくなれば、うつ状態も減ってきます。
台風が日本を直撃する場合には、特にAさんの症状の変化が激しくなりますが、台風が近づいていない場合であっても、台風接近ほどの影響力ではないものの、低気圧による影響はあり、Aさんは普段から「多少の気分変動がある」ことに気づくようになりました。
その後、Aさんはここ数年、気象庁が台風発生を知らせる前に、自分の体調や気分に変調が起こることに気づき、いわば「気象庁よりも早く、台風発生の予報ができる」ようになっていったのです。