当院のリワークプログラムとは
当院のリワークプログラムとは
現在の労働者を取り巻く背景
2000年代に入り、雇用形態の多様化や成果主義の浸透、業務量の増大などの労働環境の変化に伴い、ストレスやメンタルヘルス不調をきたす労働者が急増し大きな社会問題となってきました。また、2019年4月からは働き方改革関連法案が施行され、労働者を取り巻く環境はさらに大きく変化していくことが予想されます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構による「職場のメンタルヘルス対策に関する調査(2012年)」によると、調査対象の6割弱の事業所でメンタルヘルスに問題を抱える労働者がいるとし、そのうちの3割強の事業所は3年前に比べてメンタルヘルス不調者が増加傾向にあると回答しています。
また、雇用形態にかかわらず、過去1年間にメンタルヘルス上の理由で連続1か月以上休業もしくは退職した労働者がいた事業所の割合は25.8%にも上るとのデータもあります。こうしたメンタルヘルス不調を抱えた労働者のその後については、「休職を経て復職している」が37.8 %と最も高いものの、「結果的に退職した」割合も34.1%と拮抗する数字となっており、復職は勿論、その後も就業を継続することがいかに難しいかが表れていると言えるでしょう。
そして、厚生労働省の「労働安全衛生調査(平成29年)」では、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は58.4%と平成25年からほぼ横ばいで、職場復帰における支援(職場復帰支援プログラムの策定を含む)はわずか18.9%です。
このように、多くの事業所がメンタルヘルス対策に取り組むものの、職場復帰支援までは手が回らず、また専門的な知識やスキルがないために充分な支援がなされていない実情がわかります。
他にも、メンタルヘルス不調者については再発率が他の疾患に比べて高く、復職出来たとしても3年以内に退職する割合は40%とがんについで高い数字とのデータもあり、メンタルヘルス不調からの復職が如何に困難かということがわかるでしょう。
復職だけでなく再休職予防が目標
薬物療法の進歩と休養が気分障害や不安障害、抑うつを伴う高機能の発達障害に対して効果的であるとの認識が広がった昨今、休職した労働者の精神症状の改善と体力の回復により復職すること自体はそれほど困難ではなくなってきています。
昨今問題とされているのは、復職しても再休職や退職してしまう方が少なくないことです。これは前述のデータからもご理解いただけるでしょう。休職・復職を繰り返すことは自信を失うだけでなく、家族や同僚、職場関係者にも失望感が広まり、病状にマイナスの影響を与えるといった負のスパイラルを生じかねません。つまり、病状が改善し体力が回復したからといっても、それだけでは復職して就業継続することは困難なのです。
その理由の一つとしては復職可能と診断する主治医の判断と、この程度の業務は任せられないと困ると考える事業所側との復職可能レベルにギャップがあるからなのです。通常主治医は患者様からの自己申告に基づき復職可能かを判断することが多いのですが、復職を焦るあまりに患者様からの申告が実情とかけ離れたものであることも少なくないのです。また、通常診察には多くの患者様にお越しいただくため、診察時に毎回十分な時間を取れず、本当に就業可能レベルまで回復しているのか判断が難しいこともあります。
他にも、気分障害になりやすい方は1)人に頼まれると断れない、2)人に仕事を頼めない、3)何か問題が生じると自分を責めてしまう、などの思考パターンや行動の特徴があり、うつ症状が改善してもこうした対人関係パターンや思考が変わらない、もしくはこれらへの対処を身につけなくては復職しても症状の再燃(再休職)は免れないでしょう。
当院のリワークプログラム
先に述べた通り、短い診察時間内では本当に復職可能なレベルまで回復しているのかを見極めることは非常に困難でした。そこで当院では2005年に日本初の気分障害や不安障害の方を対象とした復職支援専門の終日型のリワークプログラムである
『リワーク・カレッジ®』を開始し、2007年には『リワーク・スクール』と順次開設致しました。
また、2013年には高機能の大人の発達障害の方向けの
プログラム『SSR』を開始しました。産業医経験が豊富な精神科医師以外にも保健師や看護師、臨床心理士や精神保健福祉士らの多職種によるチーム医療により復職可能と判断できる根拠を長年の経験とデータに基づき病状や復職準備性を確認し、患者様の安全な復職を支えていきます。
その他にも、『 復職後の再休職予防のためのフォローアッププログラム 』や『集団認知行動療法』などを復職後に行い、再休職予防も支援し続けていきます。
さらに、リワークプログラムに通所されているご家族を支援する
『サポート・カレッジ』も開催しています。
当院では、大学生をはじめ成人の方、労働者の方が就学や就労を通じて生き甲斐や遣り甲斐を感じられる毎日を過ごされますよう、またご家族の方にも患者様を支えていただくだけでなくご自身のメンタルヘルスを保てるよう、医師をはじめ多職種でサポートして参ります。
なお、当院のリワークプログラムは治療の一環であり、プログラムの参加に当たっては当院への転院が必要となり、まずは診察予約をお取り下さい。
メリット
生活リズムを整えることができる
休職期間は特にやることがなく、診察日以外は家に閉じこもりがちです。昼寝をして夜眠れなくなり、昼夜逆転してしまうことも少なくありません。
毎朝決まった時間に起き、リワーク・スクール、 リワーク・カレッジ®に参加することで活動的になり、規則正しい生活習慣や睡眠覚醒リズムが身につくようになります。これは職場復帰へ向けての最初のステップであり、会社の産業医もまずはこの点を重要視しています。
共通の悩みを持つ仲間同士で支えあうことができる
病気による休職という同じ悩みを抱えつつ、職場復帰という共通の目的を持った仲間同士であるからこそ、わかりあい支えあうことができるものです。
また集団の中で時間を過ごすという環境は、会社での環境との類似点も多く、このような環境の中で人間関係や苦手な場面などについても、トレーニングをしたりお互いにアドヴァイスしあったりすることができます。
復職準備性を高められる
生活リズムが整ったからといってそれで復職が成功するとは限りません。実際に主治医が復職可能の診断書を出しても復職に失敗する方が多く存在していますので、企業では主治医の診断書はあてにならないといわれているくらいです。
そこで当院では主治医だけでなく、保健師、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士らのスタッフが日々の状態を観察し、復職準備性を客観的に判断していきます。現在では多くの産業医から当院の復職可能の診断書、復職準備性評価表について、評価していただいております。
身近に相談できるスタッフがいる
スタッフには、産業精神保健の経験豊富な保健師、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士、等がおります。職場復帰へ向けての会社との打ち合わせで困ったことや不安なこと、それ以外でも福祉の制度についてなど個別の相談もできます。