軽い段階でストレスに気づくためには自分を観察すること
伊藤CPP はい。四六時中、自分を観察するわけにはいきませんが、「定点観測」のように時間や場所を決めるという手があります。例えば毎日の通勤電車の中や、昼食時など、時間や場所を決めて、その時だけは必ず「自分の状態を観察する」という課題を設定しておくという方法です。
五十嵐 なるほど。自分の状態を確認するタイミングを決めておくということですね。それを続けていけば、自分を観察してストレスチェックをするスキルが上がり、通常と異なる反応が表れたら察知できそうです。
「思い直し」の技術で気持ちはラクになる
五十嵐 前回、「認知行動療法」と、その具体的な手法の「認知再構成法」についてお伝えしましたが、初めてこの言葉に出合った読者の皆さんには、わかりにくいかもしれません。改めて「認知再構成法」とは、どういうものでしょうか。
伊藤CPP 認知再構成法は、いわば「思い直し」の技術です。
実は、私たちは日常の中で、この「思い直し」を普通にやっています。例えば、右の道に進もうとしていたけれども、左の道の方が近道だと気づいて進路を変える、というようなことは、よくありますよね。
仕事の場面でも、失敗してしまった時に「ああ、自分はダメな人間だ」と考え、ひどく落ち込んでいたけれども、「いやいや、世の中に失敗しない人間なんていない。誰にだって失敗経験はあるものだ。今回の経験を生かして、同じことを繰り返さないようにすればいい」と思い直し、気持ちがラクになった…というような具合です。
こうした「思い直し」を、あえて意図的に丁寧にやってみましょう、というのが認知再構成法です。
仕事で失敗して「やってしまった!」「困った!」と落ち込むことは、ままあること。そんなときに、対応策を持っていると気持ちを切り替えることができます
狭い視野を広げ、別の視点や考え方を探す
五十嵐 その「思い直し」とは具体的にはどういうことでしょう?
伊藤CPP 先ほどの「仕事で失敗した」という事例で言えば「視点を変えてみては?」と促します。
例えば、
◆過去に、同じように失敗した経験はないか。その時はどうしたか?
⇒ 自分の過去の経験を振り返り、似たケースでの対応方法を参考にする。
◆親しい友人が、いまの自分と同じ状況にいたら、その友人に何と声をかけるか?
⇒ 他人に置き換え、どんな助言が有効かを考えると冷静な検討につながりやすい。
◆あなたの上司が、この状況になった時、上司はどうするだろうか?
⇒ 上司や先輩など、経験豊かな人ならどう対処するかを想像して考える。
…というように、別の視点や考え方がないかを探すことで対処法を再検討します。
五十嵐 なるほど。先のケースでは、失敗を悔やみ、自分はダメな人間だと「認知=考え」たけれども、世の中に失敗しない人間なんていないのだと「再構成=考え直した」ということですね。
伊藤CPP はい。この認知再構成法は、これまでは専門のカウンセラーとの対話の中で行うのがよいと考えられてきましたが、近年では、この認知再構成法を含む、認知行動療法のワークブックがいくつも出版されているので、自分自身で取り組むことができます。