これまで、ここではストレス対策方法を数回に渡って取り上げてきましたが、今回紹介するのは、米国で「うつ病に対して、薬物療法と同様の効果が得られる」とされている「認知行動療法」という手法です。日本国内でも、既に、さまざまな医療現場で用いられています。
心理療法なのに薬を飲むのと同じ効果がある!?
「認知(にんち)って何?」「すごく難しそう!」「どういうものか全くイメージがわかない」と思われるかもしれません。でも、これは「うつ病」の治療に有効とされているばかりか、近年では、がんを始め、不眠や糖尿病、慢性疼痛など、さまざまな医療現場においても活用され「薬を飲むのと同じ効果がある」とされる、とても有効な心理療法なのです。
もちろん、ストレス対策にも有効です。
当クリニックでも、うつの症状で休職した会社員の皆さんの復職支援のために行っている「リワークプログラム」において、この認知行動療法を取り入れて、復職後に再休職せずに健康で働き続けるために、自分で自分を守るためのセルフケアの一つとして、習得してもらっています。
今回はこの「認知行動療法」についてお伝えします。
<この記事に掲載されている主な内容>
・ストレスを感じた時、自分に何が起こっているか
・どういう出来事が、自分にどんな影響を与えるか
・具体的な事例を書き出すと理解しやすくなる
・物事のとらえ方(認知)と行動を見直して柔軟性を高める
※当クリニックのリワークプログラムについてはこちらをご覧ください
https://medcare-tora.com/medcarecms/rework/
ここでは当クリニックの五十嵐良雄医師が、日経BPのWebサイト「日経グッデイ」で連載していた記事を日経BPの許可を得て掲載しています。
自分の不調の原因や状況を確認して整理していくことから
第12回 ストレスに効く「認知行動療法」って何?
2022/5/27 五十嵐良雄=精神科医・東京リワーク研究所所長
認知行動療法―――。この堅苦しい名称に「難しそう」と、戸惑いを感じるかもしれません。しかしこれは、ストレス対策に効果があるだけでなく、うつや不安などのメンタルヘルスの症状を改善させる手法として、また、近年では、がんや高血圧症、糖尿病や不眠、慢性疼痛(とうつう)などにおける精神的苦痛に対しても、活用されるようになってきており、薬物療法に匹敵する科学的根拠と効果があることが、さまざまな研究によって裏付けされている、大変有効な心理療法です。
実際に、わたしの精神科クリニックでも、うつによる休職から職場復帰するためのリワークプログラムの中で、この手法を取り入れて、多くの患者さんにストレス対策の方法を身につけてもらっています。
名前こそ取っつきにくいものの、ストレス対策としての効果が広く認められているのが、この「認知行動療法」です。
では、さっそくどういうものなのか、紹介していきましょう。
ストレスを感じた時、自分に何が起こっているか
わかりやすくするために、ストレスを感じたその時に、自分に何が起こっているかを見てみましょう。以下、【1】【2】…と続くのは、時系列にどういうことが起こったかを表しています。
【1】「不快な状況、苦手な環境」に遭遇してストレスを感じた。
(例えば→)苦手な相手に、知人の悪口をたっぷり聞かされた
【2】「苦しい気持ち、不快な感情」が表れた。
(例えば→)この人は自分の悪口も言っているに違いないと思いイライラ
【3】さらに、「身体的な反応」が表れた。
(例えば→)不愉快な気持ちが続いて、今度は胃が痛くなってきた
苦手な相手から人の悪口を聞かされたら…
ストレスを感じたときの状況を、このように分けてとらえると、
【1】は、ストレスが発生した状況
【2】は、その状況を自分がどうとらえ、どんな感情を抱いたかという認知と感情
【3】は、その認知によって表れた「身体反応」となります。
起きてしまった事実【1】と、それによって生まれた反応【2】【3】は、すでに過去のことなので、もはや変えることはできませんが、ストレス体験を振り返って検証してみることで「自分が、その当時の状況をどうとらえていたか(認知)」「どういう対応をしたか(行動)」を、改めて冷静に考えてみることができます。
そうすることで、例えば、別の視点や、とらえ方があることに気づいたら、「ああ、こう考えれば、あんな気持ちにはならなかった」、「あの時、こういう行動をとっていたら、あんなにストレスを感じないで済んだだろう」と考えられるようになり、当初感じていたつらさが軽減されます。
この認知行動療法の目的は、このようにストレス体験を振り返って検証することで「セルフヘルプ」、つまり自分で自分を上手に助けられるようになることです。