現代に生きる私たちにとって「ストレス対策」は、もはや必須のスキルであるとお伝えしてきました。何にストレスを感じるかは人によって違い、また、効果のある対策方法も、人によって違うということもご紹介しました。
では、それを分けるのは何でしょう? そもそも、同じストレッサー(ストレスを与える相手や出来事)に遭遇しても、「まったく影響を受けない人」と「すぐにストレス反応(ストレスが引き起こす反応)が現れる人」がいます。ストレスに強いか、弱いか。ストレスに対する反応について、私たちの身体の何が原因となっているのでしょう?
「戦争に従軍した」「従軍しなかった」双子の脳を比較
今回は、前回に引き続き、脳研究の第一人者で、東京大学名誉教授でもある加藤進昌先生にお話を伺っています。
加藤先生は、ある研究とその結果を教えてくれます。それはベトナム戦争に従軍した米国人の一卵性双子の一人と、戦争に従軍しなかった、その双子のもう一人の「脳」を戦争終了後に比較するという、興味深い研究です。
双子に注目したのは、ふたりの遺伝子などがまったく同じであり、異なるのは「戦争に従軍して、自らの生死に関わるひっ迫した状況に、強いストレスを感じた体験をしたか、体験していないか」だけになるからです。戦争終了後、注目されたのは彼らの「脳の海馬」でした。続きは本文をお読みください。
<この記事に掲載されている主な内容>
・ベトナム戦争に行った一卵性双生児を対象に
・ストレスに対する脆弱性には個人差がある
・脳の海馬の神経細胞の一部は再生する
ここでは当クリニックの五十嵐良雄医師が、日経BPのWebサイト「日経グッデイ」で連載していた記事を日経BPの許可を得て掲載しています。
強いストレスを受けても、症状が出ない人がいるのはなぜか?
第10回 脳研究の第一人者・加藤進昌 東京大学名誉教授に聞く(2)
2021/12/16 五十嵐良雄=精神科医・東京リワーク研究所所長
前回に引き続き、精神科医で東京大学名誉教授、昭和大学発達障害医療研究所所長でもある加藤進昌先生に「ストレスと脳」というテーマでお話をお聞きします。
加藤先生はPTSD(心的外傷後ストレス障害)研究の第一人者であり、国内にPTSDという言葉を定着させた研究者です。
五十嵐 前回、PTSD患者の脳の海馬の体積の話を伺いました。地下鉄サリン事件の被害者でPTSDになった人たちの海馬の体積は小さいということが分かったとのこと。つまり、もともと海馬が比較的小さい人たちは、ストレスへの脆弱性があり、日常のストレスが影響するということでしょうか。
加藤 それは、ありえることです。
もう一つ、PTSDの研究では、私の後任で、いま東京大学の精神神経科教授になっている笠井清登医師が米ハーバード大学に留学中に大学の仲間と協力して行った米国のベトナム戦争体験者を対象とした研究があります。
米国のベトナム戦争体験者と非体験者、80人を対象にした研究で、対象としたのは一卵性双生児2人のペア40組でした。